親からの借入金の活用法と贈与と言われないための注意点を徹底解説

 

親御様からお子様へ、おじい様、おばあ様からお孫様へ、お金を貸すことがお有りだと思います。このご親族間のお金の貸し借りについて、税務署はどのように見てくるのでしょうか。贈与をする場合と貸付をする場合、どういった違いが出てくるのでしょうか。

 

こちらのページでは、貸付金として処理した場合、贈与と比べてどのような違いがあるのか、また、贈与税などの余計な税金がかからないための工夫をご説明します。

 

贈与と貸付金(貸し借りの違い)とは?

 

ご親族の間でお金の受け渡しが行われた場合、大きくこれは「贈与」と「貸し借り」とに分かれます。もちろん、ご本人同士がどういった意思・ご認識でこの受け渡しが行われたかによって処理が変わります。

 

贈与と貸付金(貸し借り)の意味(定義)

 

贈与の定義については、こちらのページで詳しくまとめていますが、「自分の財産を相手に無償であげること」を言います。贈与が成立するためには、財産をあげる側ともらう側の両方が「あげる」、「もらう」という意思表示があることが条件となります。

 

一方貸付金(貸し借り)とは、将来返済されることを約束したうえで資金を貸し付けることをいいます。貸した側は、資金は減りますが、同額の債権が財産として残ります。借りた側は、資金が増えますが同額の債務(返済義務)を負うことになります。

 

相続があった時の法律的な取り扱い

 

贈与と貸付金(貸し借り)について、少し見方を変えてご説明します。

 

贈与を行うと、財産が贈与者(あげる側)から受贈者(もらう側)に完全に移転しますので、将来贈与者がお亡くなりになった際に、対象となる財産は遺産には含まれず、遺産分割協議(遺産を分けるお話し合い)の対象外となります(特別受益に該当する場合を除く)。

 

逆に貸付金については、前でご説明した通り、債権が財産として残りますので、贈与者(あげる側)がお亡くなりになった際に、その未返済の部分が遺産として分割協議の対象となります。言い換えるとこの貸付金(債権)について、借りていた方以外の相続人も権利が生じる可能性があります。他の相続人の方が遺産として貸付金(未返済の部分)を取得した場合には、借りていた方はその相続人に返済する義務が生じることになりますので、ご注意ください。

 

贈与と貸付金で税金はどう変わる?

 

次に、親族間の貸付が行なわれた場合、どのような税金が発生するのか、贈与と比べてどちらの方が有利なのかを見ていきます。

 

ご親族間でお金の受け渡しを貸付(貸し借り)として処理した場合、その瞬間には贈与税を含めて一切の税金は発生しません。この点、贈与と大きく違うメリットです。ただし、貸していた方が亡くなられて、未返済の部分がある場合には、これが亡くなられた方にとっての債権として相続税の対象となってしまいます。

 

貸付金と贈与ではどちらが有利?(事例分析)

 

例えば、ご親族間での2000万円のお金の受け渡しが行われた場合、これを贈与として処理する場合と、貸付として処理する場合とでどのように税金が変わるのかを比べてみます。

 

(1)贈与として処理する場合

 

暦年贈与(相続時精算課税制度を使わない通常の贈与)としての処理した場合の税金(贈与税)は以下の通り計算されます。

 

(2000万円-110万円)×45%-265万円=585万5千円

 

非常に多額の税金ですね。贈与した金額のうちの1/4以上が贈与税として持っていかれてしまうことになります。

 

(2)貸付として処理する場合

 

2000万円の貸し付けが行われ、これが未返済のまま残った状態で貸された方がお亡くなりになってしまった場合、この未返済部分について相続税の対象となります。

 

相続税は財産の規模、相続人の人数によって適用される税率が変わります。財産の規模が大きいほど、相続人の人数が少ないほど、税率は高くなります。

 

例えば相続税の税率が10%の場合、貸付金にかかる相続税は以下の通りとなります。

 

2000万円×10%=200万円

 

上記(1)贈与よりも少ない税金となります。

 

例えば相続税の税率が40%の場合、貸付金にかかる相続税は以下の通りとなります。

 

2000万円×40%=800万円

 

上記(1)贈与よりも多額の税金となります。

 

ここまでお読みいただいてお分かりになられたかもしれませんが、ご親族間のお金の受け渡しについて、「贈与」と「貸付」のどちらが有利かは一概には言えません。受け渡し金額と、お金を渡した側の財産の規模、相続人の人数によって、贈与税と相続税の税率が変わり、それによってどちらが有利かの判定が変わってくることになります。

 

従いまして、多額のお金のお受渡しをされる場合には、事前に渡す側の方の相続税の試算をしたうえで、「贈与」と「貸付」のどちらで処理するかをご検討されることをお勧めします。

貸付金について税務署から贈与と言われないための対策

 

上でご説明した通り、お金の受け渡しが「貸付金」なのか「贈与」なのかによって税金にも大きな違いが出てきます。

 

「貸付金」として処理する予定が、税務署から「贈与」と言われて意図しない贈与税が課せられないための対策は大きく3つあります。

 

1.金銭消費貸借契約書を作成しましょう

2.返済の履歴を残しておきましょう

3.利息の設定に注意しましょう

 

順番に見ていきますね。

 

金銭消費貸借契約書を作成しましょう(ひな形あります)

 

ご親族間の贈与について贈与契約書の作成をお勧めしておりますが(こちらのページで贈与契約書のひな形をダウンロードできます)、貸し借りの場合にも同様に、契約書の作成をお勧めします。

 

贈与も貸し借りもご本人同士の意思表示が条件で、必ずしも契約書の作成が絶対条件ではありませんが、将来この資金移動について、税務署や他の誰かから説明を求められた場合には、契約書が残っていればスムーズに証明できるからです。

 

簡易的な金銭消費貸借契約書の見本をご紹介します。シンプルな場合の例ですので、個別事情に合わせてカスタマイズしてお使いください。Google等で「金銭消費貸借契約書 ひな形」等と検索して頂ければ、他にも多くのフォーマットが入手できます。

 

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金銭消費貸借契約書

 

貸主 贈与太郎 を甲とし、借主 贈与花子 を乙として、甲乙間において次の通り金銭消費貸借契約を締結した。

 

第1条  甲は2018年8月26日に、金10,000,000円を乙に貸付け、乙はこれを受領した。


第2条  利息は、元金に対して年3%とする。


第3条  乙は甲に対し、第1条の借入金及び前条の利息を2018年1月から2028年12月まで、毎月末日までに、120回の分割で、甲の指定する方法で支払うこととする。

 

上記契約を証するため本証書を作成し、各自署名押印する。

 

2018年8月26日

 

貸主(甲)
  住所 東京都千代田区XX7-7-7
  氏名 贈与 太郎           印

 

借主(乙)
  住所 神奈川県横浜市XX区XX1-1-1
  氏名 贈与 花子           印

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ダウンロード
金銭消費貸借契約書ひな形.docx
Microsoft Word 16.7 KB

なお、貸付金額に応じた印紙の金額は以下の通りとなります。

契約書に記載された借入金額

印紙税額
1万円未満 非課税
1万円以上10万円以下 200円

10万円超50万円以下

400円
50万円超100万円以下 1千円
100万円超500万円以下 2千円
500万円超1千万円以下 1万円
1千万円超5千万円以下 2万円
5千万円超1億円以下 6万円
1億円超5億円以下 10万円
以下省略  

返済の履歴を残しておきましょう

 

返済したことが無ければ、必ず贈与とみなされてしまうわけではありませんが、貸付金として主張しているのに、一度も返済の履歴がなかった場合には、そもそも貸し借りだったのか、贈与だったのではないかと言われてしまう余地が生じます。

 

従いまして、絶対条件ではありませんが、貸付であったことを説明しやすくするためにも、返済の履歴を残しておくことをお勧めします。

 

利息の設定に注意しましょう

 

利息がないと貸し借りとは認められないのでは、贈与と判定されてしまうのでは、と心配される方もいらっしゃいます。ただし、利息を設定するかしないかは個人の自由ですので、利息を設定していないからといって、お金の受け渡し自体が贈与とみなされることはありません。

 

この点が、上でお話しした「返済の履歴を残しておく」こととの大きな違いですね。

 

ただし、元々の貸付金額が多額である場合、仮に利息を設定していたら払われていたはずの金額が払われなかった(免除された)ことになりますので、この免除された利息部分が贈与とみなされるケースがありますので注意が必要です。

 

税務署の通達には、親族間の貸し借りに関する利息について次のように記載されています。

 

“相続税法基本通達9-10

 

夫と妻、親と子、祖父母と孫等特殊の関係がある者相互間で、無利子の金銭の貸与等があった場合には、それが事実上贈与であるのにかかわらず貸与の形式をとったものであるかどうかについて念査を要するのであるが、これらの特殊関係のある者間において、無償又は無利子で土地、家屋、金銭等の貸与があった場合には、法第9条に規定する利益を受けた場合に該当するものとして取り扱うものとする。ただし、その利益を受ける金額が少額である場合又は課税上弊害がないと認められる場合には、強いてこの取扱いをしなくても妨げないものとする。”

 

難しく書いてありますが、要するに、「夫妻、親子、祖父母と孫などの関係がある方たちの間で、無利子の金銭の貸し借りがあった場合には、この免除された利子分の贈与があったものとして取り扱います。ただし、金額が少額である場合などは、この取り扱いをしなくても良いですよ」と言っています。

 

ではこの「少額」とはいくらのことを言うのでしょうか。これについて税務署は明確なルールを定めていません。

 

ここから先は私見で絶対とは言えませんが、私が立ち会った過去の税務調査において、親族間の貸し借りに関する利息分の免除について贈与税を払うよう指摘を受けたことはありません。また上記の「通達」もあくまで税務署側のルールに過ぎず、法律ではありません。利息を設定するかしないかは個人の自由でもありますので、あくまで私見ではありますが、親族間の貸し借りに必ずしも利息は設定しなくてもよいのではと考えます。

このページのまとめ

 

ここまでで、親族間のお金の受け渡しについて、「貸付金(貸し借り)」として処理する場合、「贈与」として処理する場合の違いについてご理解いただけたかと思います。

 

それぞれの処理をする場合の注意点も書かせて頂きました。

 

税務上どちらが有利かを判定するために、まずは相続税の試算をされることをお勧めします。お問合せを頂きましたら個別のシミュレーション等をお作りすることもできるので、お気軽にご連絡ください。

 

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