教育資金の一括贈与の非課税制度

■「教育資金の一括贈与の非課税制度」を一言でいうと?

 

父母や祖父母などから、30歳未満の子供や孫への教育資金を贈与する場合は、贈与を受けた一人につき「1500万円」(学校等以外に支払われるものについては500万円)までは、贈与税が非課税になるという制度です。

 

■特例利用時の注意点

 

この制度活用時には、いくつかご留意いただきたい点があります。

 

もともと、扶養義務者から通常認められる範囲内で、必要な都度行われる教育費の贈与は贈与税がかかりません。一方、「教育資金の一括贈与」の制度は「必要な都度」ではなく、将来必要と見込まれる分まで含めて「一括」して贈与しても税金がかからない点がポイントです。

・この制度を利用するためには、信託銀行等の金融機関で信託口座の開設が必要です。

・贈与を受けた子供や孫などが30歳になった時点で使い残しがあった場合には、その使い残しの金額に対して贈与税がかかります(例外あり。下記ご参照ください)。

・贈与者(あげた側)がこの制度を適用後にお亡くなりになられ、死亡前3年以内にこの制度を利用して非課税贈与を行い、死亡の日に使い残しがあった場合には、その金額に対して贈与税がかかる場合があります。

・贈与を受けた方の前年の所得が1000万円を超える場合には適用を受けることができません。

・この制度の利用は2021年3月31日までとされています(2019年1月時点)。

 

■教育資金の範囲

 

この制度の対象となる「教育資金」の範囲については以下の通り詳細な規定があります。

 

(1) 学校等に対して直接支払われる次のような金銭をいいます。

 

①入学金、授業料、入園料、保育料、施設設備費または入学(園)試験の検定料など

②学用品の購入費や修学旅行費や学校給食費など学校等における教育に伴って必要な費用など

(注)「学校等」とは、幼稚園、小中学校、高等学校、大学(院)、専修学校及び各種学校、一定の外国の教育施設、認定こども園または保育所などをいいます。

 

(2) 学校以外に対して直接支払われる次のような金銭で教育を受けるために支払われるものとして相当と認められる金額

 

<イ 学習塾や水泳教室などに直接支払われるもの>

③教育(学習塾、そろばんなど)に関する役務の提供の対価や施設の使用料など

④スポーツ(水泳、野球など)または文化芸術に関する活動(ピアノ、絵画など)その他教養の向上のための活動にかかる指導への対価など

⑤上記③、④で使用する物品の購入に要する金銭

 

<ロ イ以外(物品の販売店など)に支払われるもの>

⑥上記②に充てるための金銭であって、学校等が必要と認めたもの

⑦通学定期券代、留学のための渡航費などの交通費

(注)学校等以外に支払う金銭については、500万円が限度となります。

 

なお、上記③~⑤の支出のうち、教育給付金の支給対象となる教育訓練の受講費に該当しないものについては、23歳以上の方は非課税制度を利用できないこととされています。

 

教育資金及び学校等の範囲については、文部科学省のホームページに、より詳細な解説がありますので、こちらも併せてご確認ください。

 

■教育資金一括贈与の非課税制度のメリット

 

①通常110万円を超える金額の贈与を行った場合には、贈与税が課税されますが、この制度の要件を満たせば、多額の金銭を贈与しても贈与税がかかりません。

 

教育資金のその都度使う分のみの贈与はもともと非課税とされていますが、この制度を利用すれば、直近で使う分だけでなく将来支出予定の分も含めて一括して贈与することができます。

 

③以下のいずれかの場合、相続税の3年内贈与加算の対象外となりますので、例えば相続の直前にこの制度を利用しても相続税の対象から除外することができます(相続税を節税できます)。

・受贈者が23歳未満である場合

・受贈者が学校等に在学している場合

・受贈者が教育訓練給付金の支給対象となる教育訓練を受講している場合

 

※逆に言えば、この3点の場合に該当しない場合には、相続開始前3年以内に制度を活用したとしても、相続開始時点の残額に相続税が課税されることになります。

 

④暦年贈与(いわゆる一般的な贈与)の基礎控除(年間110万円までは非課税)とも重複適用することができます。

 

⑤この制度を利用して一括贈与を行った教育費について、受贈者(受け取った方)が使い切る前に贈与者(あげた側)に相続があった場合でも、使い残し分が相続財産に加算される(持ち戻される)ことはありません。

 

※ただし上記③にもご留意ください。 

■教育資金一括贈与の非課税制度のデメリット

 

①信託銀行等の金融機関に信託口座の開設が必要です。また、教育資金の領収書を口座を開設した金融機関に提出することが求められています。

 

②贈与額が将来の教育資金の費消額を上回る場合、使い残しとなり(30歳になった時点で使い残しがあった場合)、贈与税が課税されてしまいます。

 

※平成31年度税制改正において、例外が認められることになりました。30歳到達時において、(A)学校等に在学し、または、(B)教育訓練給付金の支給対象となる教育訓練を受講している場合には、その時点で残額があったとしても贈与税を課税しないこととされました。その後(A)または(B)に該当する期間がなかった年の年末に、その時点の残額に対して贈与税が課税されることになります(ただし、どんなに遅くても40歳になるまでとなります)。

 

③受贈者となりうる子供、孫等が複数人の場合、親族間で贈与に不公平感が生じると、相続の時にもめる要因になってしまいます。

 

④贈与者が高齢で認知症となり、意思能力がなくなってしまった場合には、この制度を使うことができなくなります。意思能力がある段階でこの特例を実行する必要があります。

 

■この制度の活用事例

 

この制度を活用した場合、一括贈与額(上限1500万円)は30歳までに使い切る必要があります。また、この制度を利用しなかったとしても、その都度使う分だけの教育資金の贈与はもともと非課税です。

これらのことを考慮しますと、まだ年少の子供や孫への贈与はこの「一括贈与の非課税制度」を活用して大きなメリットを受けることができますが、ある程度年齢が高く、例えば大学生くらいの子供や孫への贈与は「一括贈与の非課税制度」ではなく、通常の「その都度」必要な分だけの贈与を活用する方が、使い残しのリスクを避けることにつながります。受贈者の年齢によって「一括贈与」と「その都度贈与」を使い分けていくといいでしょう。